ニッケル、パラジウム、アルミの一大生産国であるロシアからの供給難で自動車、航空機、ハイテク機器など脱炭素化製品生産に必要な素材の「備蓄」「分散購入」「継続購入」「リサイクル」などの取組みが急務!

銅やアルミニウムなどのベースメタルに加え、ニッケルやパラジウムなどのレアメタルも原油や天然ガスといったエネルギー資源以上に、ウクライナ情勢によりロシアからの供給が止まるリスクにより価格上昇が著しくなっています。ウクライナ情勢前から気候変動対策に伴う物価上昇「グリーンフレーション」で資源価格は上昇傾向にありました。
パラジウムは「白金族」と呼ばれるレアメタル(希少金属)で、ほとんどがガソリン車の排ガスから有害物質を取り除く触媒に活用され、半導体のメッキにも使われています。パラジウムは、ニッケル鉱山で副産物として採掘されることが多く、ロシアは、ニッケル地金輸出で世界1位の20%、パラジウムの輸出シェアは世界2位の24%(1位はブラジル25%)と非常に高く、今回の紛争による 経済制裁や物流の混乱に乗じてニッケル及びバラジウムの先物価格は異常な値上りを続けています。コロナによるロックダウンや半導体不足により、世界中の自動車工場で物流混乱や生産停止に追い込まれていますが、半導体需要が回復しても、これらの資源系素材の供給が途絶えれば、自動車や電機、ハイテク製品の生産に影響がおよび、大きな経済損失が発生します。

特にアルミニウムは、我々の生活の中では不可欠な存在で、加工がしやすいことから、スマートフォンなどの電子機器や電子部品、飲料缶や食品・医療品の包装材など身近なところでも多く使われています。アルミは比重が小さく、軽量化による燃費向上が見込めることから、自動車、航空機、鉄道、LNG船、ロケットなどの輸送機器への採用が積極的に進み、アルミの約4割が輸送系に使用されています。また耐久性が求められる建築物や太陽電池フレームやそれを支える架台などにも多く使われています。

ニッケルは、ステンレス鋼、工具鋼といった特殊鋼の生産に使われる原料成分であり、最近では、リチウム電池の正極材や電子部品素材の需要も拡大しています。ニッケルはリチウムイオン電池の生産に欠かせない素材で、バンクオブアメリカ証券によると、ニッケルはEVに使われるリチウムイオン電池コストの約21%を占めるとしています。今後更にニッケルのコストが上がると、その割合が増えていくことになります。EVメーカー各社は2~3年前から、自社でニッケルの囲い込みの動きが加速化していました。テスラのイーロンマスク氏も2020年には「ニッケルを環境に優しい方法で生産する会社と長期契約を結ぶ」とし、VW(フォルクスワーゲン)も、アジアに拠点をもつ中国企業とニッケル調達で提携したところです。アメリカ政府もここ最近、ニッケルを「重要鉱物(クリティカルミネラル)」のリストに載せ資源確保に力を注いでいます。

銅やアルミなどのベースメタルやニッケル、パラジウムなどのレアメタルは、脱酸素社会においてエネルギー消費量削減、燃費向上、消費効率向上に寄与する素材として今後の需要の高まりと益々重要な素材として位置づけられています。

今回のウクライナ情勢によりこれらの素材は、採掘量が限られ、採掘国の偏り、採掘時の環境汚染など様々な問題を抱え、需要と供給のアンバランスにより価格が高騰していましたが、今回そのリスクが益々顕在化しています。
金属資源でいうと、ロシアは、ニッケル地金輸出で世界1位、パラジウム輸出で世界2位、アルミ地金輸出で世界3位、であり、直接取引がない国でも、市場への流通量が減ることでモノの奪い合いによる価格高騰による影響を大きくうけることになります。

それぞれの金属資源の上位2位までの生産量は
・銅  地  金 :1位中国 (40%)  2位 チリ(10%)
・アルミ地金 :1位中国 (55%)  2位 ロシア(7%)
・ニッケル  :1位中国 (34%)  2位 欧州(17%) 
・パラジウム :1位ロシア(43%) 2位 南アフリカ(33%)

上位2位迄で世界全体の50~80%を占め、中国やロシアなどの割合が非常に高いことがうかがえます
EVの主要鉱物の生産が中国に偏在し、リチウムイオン電池の製造も中国企業の成長が著しいことを考えると、ウクライナ情勢が長引くことで、中国とロシアの関係も注視していかないと金属資源のサプライチェーンが混乱し、世界的に脱炭素化社会に向けた成長戦略も描けなくなります。

今後、いつどこで何が起るか判らないことを念頭に、将来に向けた脱炭素化だけでなく既存の生産活動を止めないためにも、「備蓄」「分散調達」「継続購入」「リサイクル」などの取組みを先回りして実行していく必要があると思います。

★コラム★
●銅の安定確保が脱酸素社会の鍵を握る
https://me-grande.com/copper
●今後、地政学的リスクを考慮して「備蓄品の対象範囲・量」を拡大する必要があるのでは! 
https://me-grande.com/archives/1656

●脱炭素化・EV化・DX化に欠かせないレアメタル(コバルト、ニッケル、リチウム)レアアース等は戦略的に「備蓄」の品目・量を増やしていくことが重要!資源枯渇以外にインフレリスクも!!
https://me-grande.com/archives/1782

●ロシア産石炭の輸入を段階的に削減!”石炭は国によって成分が大きく異なる。大きな惑いも!!
https://me-grande.com/archives/2137

■ニッケル

 

 

 

 

 

 

 

 

■バナジウム

 

 

  

  

 

 

 

■アルミニウム 

出典:JOGMEC

《参考》
●経済安全保障の観点で見たバブル期~現在までの貿易額推移と米国と中国依存率について
https://me-grande.com/archives/2935
●日本の輸入依存率(エネルギー等、衣、食、住)とサプライチェーンの確立について
https://me-grande.com/archives/2491

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