石油、LPガス、レアメタル等の「備蓄」は既に法制化。今後、地政学的リスクを考慮して「備蓄品の対象範囲・量」を拡大する必要があるのでは! 

最近、政情不安やコロナ収束にによる経済活動再開により、石油や天然ガス価格が大幅に上昇してきています。日本はエネルギーや素材などの資源を海外に依存しているため、石油、LPガス、レアメタル等の3つについては、一定量を備蓄しています。国及び民間を合わせて、石油は約226日(約7ヶ月)、LPガスは約123日(約4ヶ月)、レアメタル類は約60日(約2ヶ月)と、地政学リスクを考えると感覚的に、備蓄量は非常に短期間分しかない様に感じます。
また、石油、LPガスの備蓄が法制化されたのが 1975年(約50年前)、レアメタルが1983年(約40年前)であり、その頃から生産国の国事情も変わり、CO2に対する考え方や製品の生産もグローバルに水平分業化し必要な資源や素材なども刻々変化していることを考えると、自国で採れる資源が少ない日本としては、ハイテク化、グリーンテクノロジーが進化した現代及び未来社会において「資源備蓄」について改めて考え直す必要があるのではないかと感じています。

三菱UFJ銀行のレポートでは、中国は戦略物資の備蓄、監督・管理の役割を行う「国家糧食物資備蓄局」が、国民や企業が困らない様、食料や工業製品を一定量「備蓄・管理」安定供給を確保するべくコントロールしているとのことです。

現在、パートナー会社と連携し中東のメジャー企業の傘下で金属関係を扱っているサウジアラビアの会社によると、中国や韓国企業が、積極的に「銅」や「アルミ」としたベースメタルなどの資源や素材の備蓄を着々と進めている模様です。

★日本のエネルギー・資源の備蓄について★

石油、LPガスは、法律で備蓄が義務付けられいます。石油は、「1975年石油備蓄法(法律96号)」が制定、LPガスは1977年のサウジアラビアのプラント事故による輸入量激減等が原因で「1981年石油備蓄法改正」によって備蓄が義務化。レアメタルは代替が困難で、供給国の偏りが著しく供給途絶リスク等に備えるために、1983年JOGMEC((独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構)が創設され、JOGMEC所轄で備蓄を実施。

■石油備蓄 合計226日分(約7ヶ月分)

国が保有する「国家備蓄」、石油備蓄法に基づき石油精製業者等が義務として保有する「民間備蓄」、UAE(アラブ首長国連邦)とサウジアラビアとの間で2009年以降開始した「産油国共同備蓄」で構成。
・国家備蓄:原油4,546万kl 、 製品  143万kl(IEA基準:133日分、備蓄法基準:145日分)
・民間備蓄:原油1,206万kl 、 製品1,729万kl(IEA基準: 88日分、備蓄法基準: 94日分)
・産油国共同備蓄(※):原油172万kl(IEA基準:5日分、備蓄法基準:5日分)
(※)産油国共同備蓄:我が国のタンクにおいて産油国国営石油会社が保有する在庫であり、危機時には我が国企業が優先供給を受けることができるもの

 



■LPガス備蓄 合計123日分(約4ヶ月分)

国が保有する「国家備蓄」、石油備蓄法に基づきLPガス輸入業者が義務として保有する「民間備蓄」で構成。
・国家備蓄:139万トン(53日分)
・民間備蓄:184万トン(70日分)


■レアメタル備蓄 合計60日分(約2ヶ月分)

JOGMECが備蓄を実施国家備蓄倉庫は茨城県にあり、面積は約37,000平方メートル(野球場3面分)。
☆34鉱種(55元素)
Li, Be, B, Ti, V, Cr, Mn, Co, Ni, Ga, Ge, Se, Rb, Sr, Zr, Nb, Mo, In, Sb, Te, Cs, Ba, Hf, Ta, W, Re, Tl, Bi, REE(レアアース), PGM, C, F, Mg, Si
・国家備蓄42日
・民間備蓄18日

★レアメタルの希少性★
レアメタルとは、世界的に存在がまれであるか、または分離・抽出が困難な金属元素の総称のこと。鉄鋼の添加剤としての利用以外に、ハイテク製品やグリーンテクノロジー製品に用いられている。例えば、LED照明、液晶パネル、二次電池、半導体、電動自動車等のモーター用強力磁石、太陽光パネル、風力発電機、触媒などを製造する上で必要不可欠な素材。
レアメタルは、資源の偏在性等により少数の資源保有国、資源メジャー、特定の少数企業によって生産が寡占状態にあることも多く、資源保有国の資源ナショナリズム・戦争・内乱・労働争議や暴動・国家間の政治的対立などで供給が途絶えてしまうリスクが内在。受給アンバランスによる価格高騰になることも多い。
レアメタルは、資源の埋蔵や生産拠点の偏在性が高く、副産物として生産されるものも多い。それら生産物は主産物に依存し市場規模が小さいため、価格変動も大きく不安定な供給構造である。

 


令和3年10月末時点
出典:経済産業省「令和3年度から令和7年度までの石油・LPガス備蓄目標(案)について」、JOGMEC((独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構)、経済産業省HP

《参考》
●経済安全保障の観点で見たバブル期~現在までの貿易額推移と米国と中国依存率について
https://me-grande.com/archives/2935
●日本の輸入依存率(エネルギー等、衣、食、住)とサプライチェーンの確立について
https://me-grande.com/archives/2491

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