脱炭素化によるEV化、再生可能エネルギー、蓄電池、先進ロボット、IoT、電子・通信機器、FA、AI、5G、電線ケーブルの地下埋設など技術の進歩により金属需要は高まっています。その中でも銅は脱炭素化時代において「新たな石油」としてグリーン社会を目指す上で最も注目を集めている資源です。今後、アフターコロナの景気回復や脱炭素化が進むと銅の入手が困難になり “レアメタル(希少金属)化”していく可能性もあります。
現在、石油・LNGなどの燃料価格高騰、半導体不足などがフォーカスされていますが、社会インフラを支える素材、特に非鉄金属の価格も大幅に値上りしており、銅のロンドン金属取引所(LME)価格は約10年ぶりに高値を更新、1t当り1万700ドル(約120万円)を超え、コロナ前の約2倍になっています。米投資銀行ゴールドマンサックス(GS)によると、今の銅の値上りは、世界最大の銅消費国である中国の輸入が例年の3割も増えたことがひとつの要因であり、EV、再生可能エネルギー、電子機器類の需要増だけでなく、背景には “国家備蓄の増強” がある模様です。
国際エネルギー機関(IEA)によると、ここ数年の世界全体の銅の年間消費量は約2300万t/年。今後銅需要は、再エネ、EV化などの環境対策に加え、途上国の都市化、交通インフラ整備、エアコン普及などにより、2030年には20年比4割増(約3200万t)、40年には7割増(約4000万t)になるとしています。
この中でも脱炭素化の切り札として注目されているEVではガソリン車の3~4倍、充電スタンドにも使われます。また、再生可能エネルギー(太陽光、風力)設備、蓄電地、電線ケーブルなどにも多くの銅が使用されます。銅の生産量は限られており、世界が脱炭素化・経済発展が進むことにより、受給のアンバランスが生じ価格高騰や資源枯渇を招きます。銅は“金と同じ”と書きますが、実際にモノとして使われ、今後の急激な需要の高まりを考えると、金と同じ価値になる日が訪れるのかもしれません。 *2022年2月現在
昨今ブームとなっている「データセンター」と「人工知能(AI)」の拡大により、世界の投資銀行の予測では2030年までに銅需要が更に増大し、年間50万~200万トンが追加で必要になるとしています。銅は、データセンターの電力設備、送電網の整備などに使用され、データセンターの増加とAI技術の発展により、銅精鉱の供給がひっ迫していることと相まって価格は益々高騰していく傾向にあります。
現在は、1年間の銅の生産量と消費量は、ほぼ同じ(2300万t/年)で均衡がとれています。内訳は、リサイクル品から精製される銅の割合が35%の約800万t、鉱山から精製される銅は約1500万t/年(65%)と試算されます。銅の鉱山開発は、様々な環境・人権問題を抱え、環境汚染(ヒ素,鉛,水銀などの有害物質除去)、水の確保、品質低下の進行(銅鉱石から採れる割合が1%→0.5%以下に減少) 、ストライキなどの労使問題などに加え、採掘場所も南米やアフリカなどに集中しており地政学的リスクもあり、直ぐに生産量を上げるのは困難な状況にあります。
鉱石からつくる銅の生産プロセスは
①採掘:品位は0.1から2%。
②選鉱:銅鉱石から他の金属を分離濃縮し品位20~35%の精鉱にする。不純物(尾鉱)は“ シックナー”と呼ばれる水槽で水分を抜いた後、“たい積場”で貯蔵。
③精錬:精鉱は製錬所に輸送、炉で溶かし、品位99.99%の銅地金へ。
銅鉱石から銅ができる量が1%だった場合、1tの銅を作り出すために、おおよそ100tの銅鉱石と水が必要で「使わなかった99tの銅鉱石は廃棄処分、重金属を含んだ100tの廃水処理」をする必要があり、最近は銅鉱石の品位低下(1%→0.5%~0.1%)により、更に多くの廃棄物や汚水が発生しています。
使用する水の問題でいえば、GWJ(グローバルウオータージャパン)によると、一般的に銅鉱石1トンに対し、水1トン必要ともいわれています。つまり1トンの銅を作るのに品位1%の銅鉱石だと水100トン、近年の品質低下が目立つ銅鉱山の品位0.1%の銅鉱石だと銅1トンで水1000トンです。鉱山開発は水資源の不足している乾燥地帯であり、更に最近の異常気象により水不足に追い打ちをかけ、現地住民から、生活水不足の苦情が多発している様です。世界全体でみても、水は貴重な資源で、SDGsでも目標6「安全な水とトイレを世界に」を掲げ、現在、世界人口の40%にあたる36億人が水不足に悩まされ、今後、その比率が上昇すると予測されています。
SDGsの17の目標のうち
・目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」
・目標8「働きがいも経済成長も」
・目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」
・目標13「気候変動に具体的な対策を」
の達成のために、
・目標6「安全な水とトイレを世界中に」
・目標11「住み続けられるまちづくりを」
・目標12「つくる責任つかう責任」
・目標15「陸の豊かさも守ろう」
が犠牲になっては本末転倒だと思います。
銅の需要は年々増え、2030年には20年比+900万tの3200万/t。例え、鉱山開発で20%増やすことができたとしても+300万t(1500万t→1800万t/年)で、+600万t分はリサイクル品に頼らざるを得ません。需要増に対応する為に、新規で精製する銅の実力だけでなく、環境の側面からも、もっとリサイクルを強化してしていかなければならないと思います。
化石燃料の時代が終わり、脱炭素社会は避けて通れない道です。今後は、半導体・石油不足から金属類や素材不足がモノづくりの影響へ大きくシフトします。半導体は工場をつくり、石油は産油国が減産を止めれば解決しますが、資源不足の場合はそうはいきません。採れる資源は限られ、過度な鉱山開発は環境破壊をもたらす原因のひとつになります。リサイクル品からつくる方が鉱山から新規に精製よりCO2発生量は1/4、エネルギー消費量は1/3となり、循環社会との統合的な取組み強化によって環境貢献にも寄与します。
資源の乏しい日本としては、今後の爆発的な銅需要を支えるためには、リサイクル品の安定確保と生産性向上に加え ”戦略的な備蓄” ”仕入れルートの多様化” をスピード感をもって実現し、将来の自然災害や地政学リスクに備えておく必要があると思います。
現在、世界中で半導体不足によりモノがつくれない現象が多く見受けられます。ウクライナ情勢前から気候変動対策に伴う物価上昇「グリーンフレーション」で資源価格は上昇傾向にありました。国際紛争や自然災害などで、調達先からモノを仕入れられず、モノ不足と物価高騰が世界各国で発生しています。
近年、自然災害、新型コロナ、世界紛争などが我々の想像を超える大きさとスピードで起こり、“備蓄” “分散化” “迅速な意思決定” の重要性を再認識させられました。脱炭素化、DX社会への変革も、我々の想像を遙かに超える速さで訪れています。化石燃料の時代が終わり、脱炭素社会は避けて通れない道です。今後、地球温暖化の対応の遅れにより、CO2クレジット購入などの無駄な費用や競争力低下を招かない様にするための備えが重要なポイントにとなると思います。また、資源が少ないからこそ、日本が技術面でリーダーシップをとって資源のリサイクル品の供給源となっていかなければならないのではないかと考えます。
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過去、モノづくりの会社に所属し電力事業や再エネ、環境事業にも深く関わり、1つの欠品や不具合が及ぼす影響の大きさや怖さを身をもって体験している者として、世の中のゲームチェンジ、政情不安がくすぶる現状、例え、今、使わなくても”将来を見越した備え”が必要だと強く感じているところです。賞味期限があるものは長くは置いておけないですが、賞味期限を気にする必要がないモノは、脱炭素に遅れをとらないためにも、リスク的な観点でも思い切った方向性を見出して頂けることを期待いたします。
■銅価格の推移 ※2024年5月追加更新
AI技術の発展に伴うデータセンター建設、先進国/新興国の新規インフラ投資、再生可能エネルギー、送電網整備、EV需要増加など、2023年後半以降経済が活発し、銅需要が増え価格は値上り傾向にあります。値上りは、銅だけでなくアルミや鉄などの鉱物資源全般に及んでおり、輸入に頼らざるを得ない日本は円安により、諸外国に比べ調達コスト増の影響をもろに受けています。2000年頃までは銅価格はアルミ価格の1.5倍程度で推移していましたが、2008年リーマンショック頃から約3倍、現在は3.5~4倍位になっています。
出典:世界のネタ帳より
*2024/5/21 銅建値175万円/tとなり過去最高値を更新
< 出典:♢銅建値推移(日本電線工業会) >
■銅の生産と消費、鉱物資源について
現在、1トンの銅で40台の車、10万台の携帯電話に電力を供給し、400台のコンピュータで操作を可能にし、30の家庭に電力を分配しています。銅は様々なところで使われています。
①電力/電子/機械分野 | 地中送電線,架空送電線,各種ケーブル,電気配線,発電機, 変圧器,配電盤,半導体ICリードフレームコネクタ |
②自動車/輸送機器 | 自動車用ワイヤーハーネス/電装品, リチウムイオン電池, 鉄道用トロリ線,車両用電線,船舶用電線 |
③建設分野 | 引込み電線,屋内電気配線, 屋根,建築材料,ビル外装, 玄関,手摺り,階段 |
④家庭用機器 | エアコン,除湿機,空気清浄器,冷蔵庫,電子レンジ, 蒸留釜ガス, 桶,給湯器,電球の口金,鍋釜,洋食器 |
⑤医療分野 | 先端医療機器 |
銅は電線や伸銅品として使われている内訳は、建設30%、電気・電子機器26%、自動車・輸送機械13%、工業機械7%、通信・電力5%、その他20%(出典:2019年 JOGMEC)となっており、脱炭素、EV、DXが進むと現在使用比率が低い分野での使用量多くなります。今後自然災害対策や盗難防止のための電線ケーブルの地中埋設化なども出てきます。蓄電地やIT機器類にも多く使用するため銅のニーズは高まる一方です。
銅の活用によって、CO2排出量、エネルギー、流通、投資、雇用、安全、サステナビリティを実現できます。その中で銅のリサイクルは、重要な役割を果たします。銅の回収とリサイクルは、需要の増加を満たし、将来世代の持続的な未来を築くのにも役立ちます。
銅鉱石の鉱山は、南米のチリ、ペルーで60%以上を占め、次いで中国、米国、コンゴ、ザンビアなどアフリカなどです。銅の新規鉱山開発は様々な問題を抱えており、思うように採れないのが現状です。その要因としては、環境汚染(ヒ素,鉛,水銀などの有害物質除去)、水の確保、品質低下の進行(銅鉱石から採れる割合が1%→0.5%以下に減少) 、ストライキなどの労使問題等です。
ICA(国際銅協会)によると世界の銅埋蔵量は約7億トンですが、現在の年間消費量2300万トン(新規鉱山 1500万t(65%)リサイクル利用800万t(35%))で考えると、可採年数は35~40年となりますが、鉱石の品質低下や歩留まりの悪さの進行、今後の需要増を考えると、残余年数は20年位しかない計算になります。
消費量は中国が断トツで全体の約50%以上を占めていることから、大量購入による安価な調達や鉱山会社の囲い込みもし易い状況にあります。
■EV(電気自動車)の銅の使用量はガソリン車の3~4倍
独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の調査によると一般の自動車に使われる銅24kgに対し、ハイブリッド(HV)33kg、プラグインハイブリッド(PHEV)54kg、電気自動車(EV)94kgと電動化に伴い銅の使用量が格段に増えます。国際エネルギー機関(IEA)の2021年7月の報告書によるとEVを含む電動自動車の普及台数は2020年度は約320万台となり、世界の自動車総販売台数の5%となりました。現在、世界で走行する普通自動車、トラック、バスを含む電気自動車(EV)の総数は、現在の1,100万台から2030年までに1.4億台(1年間平均1800万台)になり、各国政府が地球温暖化防止目標の達成に十分な台数の低炭素車の生産を促進することに合意すれば、全世界で2.3億台(1年間平均2400万台)に増えることになります。
2021年12月14日に、トヨタがEVの販売台数を引き上げ、2030年までに350万台にすると発表しました。テスラ社のイーロンマスクCEOも2030年には年間2000万台を販売する計画(2021年は93万台)を掲げその他VW、GM、BMWをはじめとする欧米の大手自動車メーカーや巨大市場の中国メーカもEVに舵を切り、2030年の世界の自動車18億台のうち、8%に相当する1.4億台がEVになるという(IEA)の予測値も実現不可能ではないのかも知れません。
また、IEAは、EV化による原油需要減少率より、銅需要増加率の方が高いとし、銅需要全体の1%弱から6%に拡大することになります。
■充電スタンド
EV普及のためには、充電のインフラも必要となりますが、ICAの試算ではEV充電器は0.7kg、高速充電器は8kgの銅が使用されます。IEAの資料では、2016年に電気自動車が累計200万台だった時に、一般充電器21万箇所、急速充電器10万箇所であった。2030年に1.4億台になった際は、急速充電が増加し、インフラもその時より増えると想定し、2億ヶ所以上の充電設備が必要になります。
■再生可能エネルギー
国際エネルギー機関(IEA)によると世界の再生エネルギーの設備容量は2020年に約3.000GW(電力設備全体に占める比率は約38%)が2030年に約10.000GW(同約70%)、2050年に26,500GW(同約80%)と容量、比率ともに急拡大が予測されています。
最も大きく伸びるとされる太陽光は単年度で2020年は127GWでしたが、2030年には630GWになります。累積は2020年760GW→2030年 5000GW。INERA風力発電の報告によると2030年までに世界の風力発電設備容量は2015GWに達する見込みで、陸上は1787GW、洋上は228GW。2020年単年度の新規設置量は93GW(陸上:87GW、洋上:6GW)で、今後、陸上風力の年平均成長率は0.3%で年平均80GW、洋上風力の年平均成長率は31.5%と非常に高く、年平均15GWと洋上のシェアは2020年6.5%だったものが、2025年には25%となります。
再生可能エネルギーの設備に使用される銅の使用量は、Wood Mackenzie社の報告によると、1GWあたり「太陽光:2500t~7000t/GW」「陸上風力:5400t/GW」「洋上風力:15300t/GW」 特に太陽光は接続ケーブルを多く使用し、設置面積も大きいことから、通常の発電設備に比べ銅の使用量が格段に増えます。
■脱炭素化に向けて
コロナ渦で世界の人々の行動様式が大きく変わり、脱炭素化も世界レベルで急速に発展しています。ポスト・コロナを見越した新しい産業が成長し、その産業が求める新たな資源・素材の需要が急増しています。
その代表例が半導体であり、その他需要が増えているのは、銅・アルミなどの非鉄金属、グラファイト、ニッケル、マンガンなどの鉱物資源、リチウム、コバルトなどのレアメタル(希少金属)、ネオジムなどのレアアースなどです。国際エネルギー機関(IEA)は「これらの資源・鉱物は小数の国に生産が集中しており地政学リスクに脆弱である」と指摘しています。
特に、自動車で販売台数世界首位の中国が“EV化”“再エネ化”に完全シフトした場合、その他の国に十分な鉱物資源が十分供給されるか不透明となり、必要資源の安定供給が大きな課題になります。今後は、原油や半導体から鉱物資源の実需や国際情勢により経済全体が影響を大きく受けることになります。
資源小国の日本としては、既成概念にとらわれず、様々な分野で大きなゲームチェンジが行われようとしている中、周回遅れにならないように、従来の殻を破って、新たな販路開拓や将来を見据えた手をうっておく必要があります。
リサイクルの活用や備蓄、仕入れルートの多様化を早め早めに検討しておかななければならないでしょう。まずは、脱炭素と新しい技術革新の鍵となる“銅”について改めて見直していては如何でしょうか。
★コラム★
脱炭素化・EV化・DX化に欠かせないレアメタル(コバルト、ニッケル、リチウム)レアアース等は戦略的に「備蓄」の品目・量を増やしていくことが重要!
https://me-grande.com/archives/1782
EVの車載Libリユース、リサイクル市場の拡大により、コバルト、ニッケル、リチウムの回収が急務!
https://me-grande.com/archives/1800
(参考資料)
JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)、IEA(国際エネルギー機関)、ICA(国際銅協会)、経済産業省「鉄鋼・非鉄金属・金属製品統計」「非鉄金属等受給動態統計」「非鉄金属海外鉱等受入れ調査」、財務省「貿易統計」、JETRO(日本貿易振興機構)、WBMS(World Bureau of Metal Stistics 世界金属統計局)、USGS(アメリカ地質調査所)、Global Trade Atlas(世界貿易データ統計)、GWJ(グローバルウオータージャパン)、日本鉱山協会、日本電線工業会、日本伸銅協会、LME(ロンドン金属取引所)、IRENA(国際再生可能エネルギー機関)、日本SDGs協会